県庁は県民と地域のために存在し、知事や職員はその目的達成のための装置である。
9年前に鳥取県知事に就任してまず始めたのは、県庁内の意識改革だった。就任直前の県庁は裏金問題で県民からの信頼感が低下していた上、「自立せよ」という口先ばかりで農業団体・商工団体・市町村などを突き放す県の姿勢に、巷で怨嗟の声が溢れていた。大都市との地域間格差をはねのけて未来づくりに突き進むには、人口最少県であることを逆手にとり、県職員が県民の声に耳を傾け多様な主体と連携して行動を起こし、小回りを活かして結果を生み出していく戦略以外なく、私も「県民の道具」と自らを位置づけた。今顧みれば県職員の意識は変わってきた。公務員は「人の役に立ちたい」と志望して入庁する。県民の笑顔が報酬と思う職員の行動が改革の追い風となり、県庁に対する評価も確実に向上した。
併せて、生身の生活者である人間の集団が県庁組織だという視点も大切だ。メイヨー、レスリーバーガーらのホーソン実験で工員が「自分たちが世界的実験に参加している」という意識により能率が高まったことから明らかになったように、人間としての感情が組織の力に大きく影響する。鳥取県もワークライフバランス実現などに、先陣を切って挑戦してきた。
県独自のフレックスタイムによる時差出勤を展開し、今年度からサテライトオフィスや在宅勤務も導入した。他方で、トヨタ方式のカイゼン活動を導入して、業務の見える化、データベースの活用等々、職場の中で生まれたアイディアにより現場主義で効率化を行い、超過勤務解消やワークライフバランスに繋げ、9割の超過勤務を解消した職場も現れた。職場環境を民間のように改革していくフロンティアは、現場の工夫にある。
若者も高齢者も女性も男性も皆が包摂され活躍できる「一億総活躍社会」へ、昨年11月26日に一億総活躍国民会議が緊急対策の提言をとりまとめ、家庭で地域で職場で、希望がかない能力を発揮できる社会を目指すとされた。しかし一方で、政府は12月25日に第4次男女共同参画基本計画を決定し、平成32年に課長級に占める女性割合目標を国の公務員で7%(現在3.5%)、都道府県で15%(現在8.5%)とし、従来の目標から大きく後退させた。志があるのか疑問も感じる。
女性登用のような人事が絡む改革には、トップをはじめ強い意思と継続的努力が必要だ。私の就任前には鳥取県の警察も含めた女性管理職割合は7.0%だったが、今年度は13.0%で最近は東京に次ぐ全国第2位に上昇している。ポスト数が全国最少レベルの鳥取でここまで引き上げるのは、並大抵ではなかった。根気よく係長・課長補佐から人材を発掘し育て続けて、はじめて女性管理職比率に表れてくる。以前の県庁の人事権者は「女性職員は議会答弁に不安がある」と部長職につけてこなかったが、私は「答弁を指導し能力を育てるのはトップの責任。議会対応は首長がカバーすればよい。」とこの呪縛を引っ繰り返した。国等からは、女性登用が「進まない」理由として、女性の管理職教育が前提、等々の声が聞こえてくるが、これは「進めない」ための理由づけに過ぎない。認められたと考える人がいれば、より多くの人が不満を覚えるのが人事の宿命であり、役所の人間は自分に都合の良いように理屈を作るのが得意だから、それを乗り越える強力なリーダーシップが改革に不可欠だ。事実、登用した女性幹部職員が、対人関係が大切なポストで成果をあげる活躍が目立つ。
また、男女ともに活躍する職場、子育て世代も安心して働ける職場にするため、子育てに優しい職場づくりが急務だ。地方創生を志す若手知事12名が集結し「日本創生のための将来世代応援知事同盟」を結成し、昨年5月に岡山で皆一致してイクボス宣言を行った。この成果を鳥取県内全体にも拡大するため、翌6月経済界・労働界等のトップ一同で「イクボスとっとり共同宣言」を行い、その後県庁全管理職約400名がイクボス宣言に署名した。そしてイクボス研修の仕上げとして策定した行動規範を県職員の「イクボス憲章」として制定するとともに、管理職の人事評価にイクボス度を盛り込み、今冬のボーナスではイクボス度高評価20名の支給額をアップした。新たな県庁職場文化として、イクボスが定着していくよう鳥取県は行動を起こした。
銀も金も玉も何せむに優れる宝子にしかめやも
伯耆国(現在の鳥取県中西部)の国司でもあった山上憶良が望んでいた家族の姿を、今も私たちは追い続けている。その目線の先に、地域づくりという宝も輝いて待っている。