平井通信

寄稿分
「連合」軍 vs 新型コロナ
鳥取県知事 平井伸治

 昨年1月3日に武漢で発熱した中国籍男性が、日本に帰国後医療機関を受診し、日本初の新型コロナ感染と判明した15日夜、日本列島でも悲劇の幕は上がりました。 実は、鳥取県は一刻もおかずに対策を始め、翌16日から県庁に新型コロナの相談窓口を設置し、21日に「新型コロナウイルス対策連絡会議」、31日に「新型コロナウルス感染症対策本部」を全庁横断組織として発足させました。
 私の脳裏にあったのは、鳥取県は感染症に脆弱だということでした。高齢化率が高く、病院数も病床数も豊富とはいえず、感染症に詳しい専門医も大都市と比べればとても少ない。中でも、感染症病床はわずか12床に過ぎませんでした。武漢のような修羅場がもし鳥取で起きてしまったら、重症化しやすい高齢者が多く、医療資源に乏しい鳥取県のようなところはひとたまりもありません。「想像したくない光景」は「何としても避けなければならない」という「危機感」から、直ちに地域を挙げて行動を起こすことにしたのです。
 鳥取県の医師会等と会合を重ね、主な病院とも調整を進めました。昨年2月、当時極端に不足していたマスクを県備蓄ほぼ全て院内感染防止のため医師会に提供するなど、県としての全面協力の姿勢を示した結果、医療界も要請に応え、今や新型コロナの確保病床は323床、診療・検査医療機関も全医療機関の9割に及び、小さな県ながら両者とも人口比全国最多となっています。PCR検査能力も、当初は1日120検体の処理能力でしたが、現在は人口比全国一の日量6250検体です。都道府県初のドライブスルー方式を採用し、濃厚接触者に限らず幅広く検査する独自の「積極的PCR検査」を実施し、8月には全国初のクラスター対策条例を制定するなど、危機感をバネに邁進してきました。これを基盤に「早期検査・早期入院・早期治療」の「鳥取方式」を貫きながら、新型コロナ「第四波」との激しい闘いに全力を傾けています。

 今、世界も日本も新型コロナの猛威にさらされています。関西エリアは地域相互の緊密な交流があり、構造的にどこか一地域だけで感染対策を完結できません。
 昨年末から今年初めにかけての「第三波」では、首長同士で感染状況について率直な意見交換をすればするほど、「今暴れ回っているウイルスはこれまでよりも格段に感染力が強いのではないか」という見方で一致しました。「以前余り感染しなかった小さな子にもうつる」、「何人かだった家庭内感染が今は一家全員も」、「ウチの県は事業所内ほぼ皆感染」という深刻な報告が飛び交ったものです。当時、この劇的な変化はウイルス自体の問題なのか、気候が影響するのか、人の動きが年末年始変わったからか判然としませんでしたが、鳥取県では「ウツリやすくなっているので注意レベルを上げて」と県民に呼び掛けました。
 現在の「第四波」はそれを上回る感染力であり、鳥取県も総力戦で感染拡大を防ごうと感染連鎖の囲い込みを図っているものの、残念ながら相当手強いウイルスです。

 最近は度重ねて、関西広域連合の委員である首長同士で率直な情報共有を図り、非常に困難な中でも協力できる方途を話し合っています。ようやくN501Yなどの変異株の影響がクローズアップされるようになりましたが、私は「第三波」の時も感染急増の波は何らかの変異株が広がることで起こっているのではないかと考えていました。関西広域連合委員会で、N501Yについては、鳥取県では「Ct値」が14や11という異常に強いウイルス検体が検出されていると申し上げました。このレベルですと、マスクを外したまま会話しただけですぐに感染するウイルス量が飛沫に含まれます。だから会食だけを対象に対策を組んでも十分ではありません。重症化、入院長期化、年少者感染などの特徴もウイルスの特性によるのかもしれない、データを集め分析していこう、と話がまとまりました。

 鳥取県も、新型コロナとの闘いで、関西広域連合の一翼として広域的に共闘しています。
 例えば、「第一波」では、京都市の要請に応じてマスク1万枚を提供し、滋賀県・兵庫県にフェイスシールド2千4百枚を支援するなど、医療資材の相互支援で共同戦線を張りました。また、「第三波」においては、大阪府の派遣要請に基づき、大阪コロナ重症センターに看護師2名、大阪市保健所に保健師・衛生技師計2名を派遣しました。
 今も緊急事態宣言が発令されている「第四波」は、関西にとってかつてない脅威となりました。兵庫県井戸敏三知事から「できる限り患者の受け入れをお願いしたい」との切実な要請をいただき、鳥取県も相次ぐクラスターで厳しい状況ではありましたが、「兵庫県民の命も鳥取県民の命も同じように大切」と申し上げ、関西広域連合の同胞として、また隣人として、患者を受け入れることといたしました。更に現在、姫路市保健所に保健師と衛生技師を派遣して、保健所機能の維持・強化に微力を尽くすこととしております。
 新型コロナと闘う暗いトンネルの出口は、ワクチン接種ではないかと期待されています。その円滑な実施に向け井戸知事と協議し、兵庫・鳥取県境地域で、全国初となる県境を越えたワクチン共同接種をすることとしました。鳥取県東部と兵庫県北西部は「因幡・但馬麒麟のまち連携中枢都市圏」として、通勤・通学、買い物、通院など生活・経済圏をともにしており、住所地以外でワクチン接種できるよう共同接種体制を組むことで、例えば兵庫県の方が鳥取県の病院で簡便に予防接種が受けられるようになります。当初難色を示していた厚生労働省も両県連携を許容するようになり、具体的準備が進められています。

 堺に生まれた与謝野晶子は、スペイン風邪の猛威に立ち向かおうと書き綴りました。
 「私は今、この生命の不安な流行病の時節に、何よりも人事を尽して天命を待とうと思います。『人事を尽す』ことが人生の目的でなければなりません。」(随筆「死の恐怖」)
 あれから約百年。今もまた『人事を尽す』時です。関西広域連合一丸となった「連合」軍と新型コロナとの闘いを克服するため、私も最前線の一翼を担う覚悟です。

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