平井通信

寄稿分
新型コロナ「第7波」を迎え撃つ
鳥取県知事 平井伸治

 鳥取県では、今年に入り半年続く第6波を、徹底した疫学調査等で感染拡大を一定程度抑制する一方、営業制限等の飲食店規制を回避して、感染拡大防止と経済社会活動の調和を図る挑戦を続けてきた。
 すなわち、無料検査も含めた検査能力を高めて、陽性者が見つかればその家族も当日中に検査するなど迅速な検査を徹底的に行うとともに、子どもたちを感染拡大から守るため、教育委員会や子育て部局に行政検査やクラスター鎮静化を担わせ、保健所業務の肩代わりも図ってきた。こうして、独自に子どもたちを感染から守るべく疫学調査や学校・保育園等のクラスター対策などを戦略的に展開することにより、BA.1からBA.2へと連なる感染力の強いウイルスに対峙し、全国で最も感染者数を低く抑えてきた。6月半ばまでには、新規陽性者のレベルは相当程度抑制され、第6波ピーク時の1日211人から6月12日の週には1日平均30人まで落ちていた。ポイントは、オミクロン株は「世代時間」が短く感染連鎖が早いので、それを上回るスピードで検査と疫学調査を展開することで抑え込む手法だ。これにより、飲食店の飲酒制限、営業時間制限、人数制限等は一切せずに、地域観光促進や事業者支援などを併用して、他地域のような行動制限なく経済を回し続けようとしてきた。

 しかしながら、6月中旬以降、全ゲノム解析やスクリーニング検査によって、新たな変異株が鳥取県内に出現してきたことが明らかとなってきた。

 最初のケースは、アメリカで典型的にみられたBA.2.12.1が6月中旬に県東部でクラスターを惹起したものだ。首尾よくクラスター囲い込みに奏功して拡大を防げたものの、その後もこのタイプは県内に入ってきている。BA.4も1例東部で確認されたがこれも封じ込めた。

 地域を一変させたのは、6月下旬から県内でも検出されているBA.5だ。これはL452R変異を捉えるスクリーニングをかけ、全ゲノム解析で確定させる。南アフリカで最初に見つかったと言われている変異株だ。専門家や政府の分析は全国的な分析作業が確定しないとメッセージが出てこないが、我々保健衛生の現場で日々調査・分析を行いリアルタイムで把握している事実関係を見れば、従来のBA.2に比べ格段に感染力が強い。以前はそこまでの感染は考えにくかった関係の人にまで感染したケースも少なくない。子どもたちだけでなく職場など大人の場での集団感染など、BA.2と必ずしも同じ感染傾向にあるとは言えないように思える。ウイルスの動きを日夜追っている現場だからこそ、そういう様相が見える。本県では、BA.5又はその疑いのあるものが既に218件(7月6日現在)。直近のスクリーニング結果(7月4〜6日)では56%、特に県西部では83%がBA.5又はその疑いだ。従来のBA.2からBA.5への移行は早い。その結果本県過去最多の陽性者数が続くこととなった。

 専門家や政府は「統計」が確定していない、「エビデンス」が十分でないという理由から判断を留保しがちであるが、ここ関西圏域や山陰を含めBA.5が全国的に様々なルートで急速に広がっており、それぞれの地域で「第7波」に突入していると考え、新たな株の特性に即応した対策を国全体で早急に考えるべきだ。

 令和2年1月以来、我が国において感染の波は増減を繰り返しているが、新型コロナウイルスの株がより感染力の強い株に入れ替わるときは、急速に波が跳ね上がる傾向がある。これについて、専門家は、人出の変化、人々の意識、ワクチン効果減退など色々と説明をつけるのだが、現場を預かる者から見れば、感染急拡大の要因として最も説明がつくのは株の変遷だろう。第6波に入ってからも、年末年始に全国的に急上昇した時期は、デルタ株からBA.1に入れ替わった時期と重なり、ゴールデンウィークを挟んで地方部を中心に顕著に上昇したのは、大都市部との交流もあり急速に地方部でBA.2が拡大した頃と一致する。そう考えると、現在BA.5に流行の中心が移る時期こそ、急拡大を警戒すべき時期だと判断して、感染予防対策のレベルアップ等の手を打っていくことが急務ではないか。

 小職は、保健衛生的手法等による感染拡大防止を図りながら、ウイズコロナで経済社会活動を続けることが大切と考え、鳥取県はまん延防止等重点措置など飲食店の制限は控えながら、他方で保健所の機能強化を断行することで感染レベルを抑制する戦略でやってきた。感染拡大が深刻化すると、メディアは必ず飲食店街をクローズアップし行動抑制を強調する流れになる。折角本県が疫学調査等を駆使して街中の感染の連鎖を抑えても、結局風評等により飲食店に人が近づかなくなってしまう。感染=飲食店の構図が刷り込まれてしまい、感染の中心が家庭、学校・保育園等に移っていても、飲食店対策を求める圧力が高まるばかり。これでは対策が的外れになり感染は収まらない。大規模な行動制限よりも、感染連鎖を断ち切る検査・疫学調査を徹底する方が、遥かに社会的コストはかからないし効果が出る。

  新型コロナの感染の波は、変異など「ウイルスの都合」で引き起こされる。感染対策の既存制度や過去の研究結果・成功体験など「人間の都合」で止まるとは限らない。感染の中心でなくなったなら飲食店に対策を集中しても、効果が上がるとは限らない。経済社会活動と両立させながら「第7波」を迎え撃つ対策について、変異株の特性を踏まえ、まん延防止等重点措置のあり方も含め、政府や専門家は是非とも考えていただきたい。

 専門家も政府も、地域によって精度に差のある感染データの全国集計を指標に考えようとするが、変遷するウイルスに対峙し得る即効性のある対策を考えるには、感染状況調査が進んでいる地域のデータに基づき、ウイルスの株の特徴を早急に分析して、有効な対策を打ち出し、国民にも現場にも提供する方が適切ではないか。2日に1回ウイルスは世代交代するのに週平均を待っていてよいのか。もっと現場のリアルタイム情報に目を向けるべきだ。今後は、新たな変異株を感染症としてどう扱うべきかも議論されてよいのではないか。幸い日本では感染予防の意識が高く、国民、事業者の皆様のご協力をいただくことが重要だ。

 小職は、6月28日に一早く「第7波の入り口に立った」と宣言し「変異株による感染急増警戒情報」を発出した。7月7日には県西部地区に「新型コロナ警報注意報」を発令するとともに、「BA.5・第7波特別対策プロジェクト」を始動し、具体的な感染予防対策を県民・事業者に呼び掛けるとともに、地域の事情に明るい市町村と共同でPCR検査や在宅療養を行う異例の体制を導入し、最後の砦である医療機関と順次病床確保協定を締結するなど、自治体・医療・看護など「地域ぐるみ」でBA.5の難局に立ち向かうこととした。 

 鳥取県は、日々のデータに基づき現場主義で臨機応変に闘っていく。行動制限ではない独自の道だ。小さな県ながらも「第7波」と真っ向闘う地域を挙げた総力戦に入っている。

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