平井通信

寄稿分
「蟹取県」の挑戦
鳥取県知事 平井伸治

 鳥取県・兵庫県を中心に、雄大な日本海を望む山陰はカニの本場。今はすっかりカニの季節。
 毎年9月〜6月には「ベニズワイガニ」、11月〜3月には「松葉がに」(ズワイガニの雄)、11月〜12月には「親がに」(ズワイガニの雌)、2月には「若松葉がに」(ズワイガニの若雄)。残念ながらあまり知られていませんが、農林水産省の統計で鳥取県はカニの水揚げ量日本一。全国の4割近くを誇り、2位の北海道の倍を軽く超えています。さらに、県庁所在地などの全国ランキングで、カニの購入量も金額も日本一。実に世帯当たり約2kgを食べ尽くすのが鳥取県民です。
 しかしながら、鳥取県は「カニ日本一」にふさわしい知名度がなく、価格面でも課題を抱えていました。折角漁師さんや県が頑張っても、アピール不足でカゲが薄いままでした。

 平成26年のこれからカニの季節という頃、県庁観光担当幹部がやってきました。 「冬場は観光宿泊の閑散期なので、今年の観光キャンペーンは、毎月カニをプレゼントするキャンペーンで盛り上げたいと思います。」 「それなら、縦割りにせずに、いっそのこと水産振興、販路拡大と合わせて、日本一の水揚げを分かりやすくアピールしては。『蟹取県』に改名すると打ち出す。県名を変えてもお金はかからないし。」
 こう申し上げて、「蟹取県ウェルカニキャンペーン」をスタートすることにしました。観光と水産を一緒にというのは、と困った顔を観光担当職員がしていましたが、「カニはいるけどカネはない」が鳥取県の絶対的制約条件。縦割り行政の余裕はないし、観光のためにカニを持ち出しても、宣伝臭がプンプンするだけで、素直にカニの美味しさを売り出した方が人々に届くカニの薫りが醸し出されるはず。わかりやすく「カニといえば鳥取県」というイメージづくりに打って出ることとし、「カニ」をテーマにしたPR動画やSNSプレゼント企画など、鳥取県の恒例キャンペーンとして展開してきました。

 これが鳥取のカニ価格が正当に評価される契機になり、カニを楽しみに冬場の観光客も増え始めました。さらに、平成27年からは「松葉がに」のうち、大きさ・品質・形とも最上級のトップブランド「特選とっとり松葉がに 五輝星(いつきぼし)」をブランド化。なんと、令和元年11月の初セリでは最高値500万円の値がつき、ギネス世界記録に認定され、全国メディアで大々的に取り上げられました。歴代の最高値「五輝星」で人間の胃袋に入るのをまぬかれた幸運なカニは、剥製にされたり生きたままであったり、「とっとり賀露 かにっこ館」などで展示される地元の「星」として輝き続けています。
 観光誘客に貢献したのはもちろん、蟹取県のみやげ品や「蟹取県帽子」、「カニボールペン」まで人気を集めるようになりました。

 鳥取・岡山両県で首都圏向けPRイベントを伊原木隆太岡山県知事と毎年のように共同アンテナショップで行っていますが、今年は「三太郎」のコンセプトでという企画に(おそらく岡山県のアイディアか)。伊原木知事扮する「桃太郎」とタレントの「キンタロー。」さん。小職には、梨太郎になって、と県職員は言ってきました。でも、梨太郎なんてないし、インパクトに欠ける・・・「ゲゲゲの鬼太郎」が水木しげる先生ゆかりの鳥取県にふさわしい「太郎」なのでは、と尋ねると、それは「オトナの事情」でムリになった、とのこと。それなら「蟹太郎」というキャラクターをでっちあげて、やった方がよいのではと言い渡し、再検討をお願いしました。
 かくして、真っ赤な衣装に身を包み、巨大なカニ爪を着けさせられて、登場することに。 「山陰には、日本海をドンブラコとカニの鍋が流れてきて、蟹太郎が生まれたという伝説があります。」そうアドリブででっちあげ、辛うじてツジツマを合わせて、蟹取県をメディアにアピールしました。
 今年の蟹取県ウェルカニキャンペーンでは、鳥取県とメルカリShopsがコラボして「メルカニShops」をオープン。23の県内特産品業者が出店し、評判を呼んで店舗数も増えています。今シーズンは「蟹×旅〜鳥取県をもっと身近カニ〜」をテーマに、インスタグラム投稿での「#推し旅チャレンジ」プレゼントなど多彩なキャンペーンを展開し、格闘家で「とっとりふるさと大使」の武尊さんや「蟹取県アンバサダー」に就任した山崎怜奈さん等を交え、東京でメディア発表会も行いました。

 地域には身近な「宝物」があります。それを磨き上げ、観光・産業振興に繋げる挑戦が成否を分けます。 ぜひ「蟹取県」へお越しください。美味しいもの「とっとり」ます。 「蟹取県へ、ウェルカニ!」


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