平井通信

寄稿分
「あいサポート運動」15年の挑戦 〜ともに生きる社会へ〜
鳥取県知事 平井伸治

 昭和56年、東京・千葉で開催された国際アビリンピックが原点だった。 大学生の私は、障がい者技能五輪タイ選手団の介助と通訳を兼ねた日本赤十字ボランティアとして参加し、障がいの有無に関わらず、喜怒哀楽も夢も挑戦も変わらない、皆等しく「尊厳ある人間」だという大義を体得した。事前研修では、視覚障がい者は腕の後ろに手を添えて相手を不安にさせないようエスコートして案内すること等を学び、交流会では聞こえない人や車椅子の人も当時流行していたディスコに興じるのを目の当たりにし、皆障がいをものともせず挑戦し楽しむことを実感した。「様々な障がいの特性を理解し、適切な介助のやり方を多くの人が身につける」ことが、同じ社会をともに生きる道だと確信した。

 平成18年、国際連合で「障がい者権利条約」が締結され、「全ての障がい者によるあらゆる人権及び基本的自由の完全かつ平等な享有」が宣言された。鳥取県知事に就任したばかりの頃、条約啓発研修会の企画について県の担当部局が説明に来たが、有識者の講演会を開いても社会は変わらない、条約の理念実現へ実践運動を起こし人々の意識改革・行動変容に繋げるのがよい、と再検討をお願いした。決められた予算の執行に当たる職員は面食らっていたようだが、その後丁寧に協議を重ね、「障がいを知り、ともに生きる」を基本理念とする「あいサポート運動」が平成21年11月にスタートすることとなった。地域でともに生きる住民が、多様な障がいの特性を理解し必要な手助けや配慮を適切に実践する「あいサポーター」となる草の根運動だ。これを支える企業や団体の活動も県が支援する。

 「あいサポート」とは、「私(I)がサポートする」に「愛をもってサポートする」を重ねた造語だ。日赤ボランティアの経験を思い起こし一からテキストを作成することから始め、障がい者施設でシンボルマークを考えるなど、人口最少県で「あいサポート運動」は始まった。今や全国の自治体や韓国江原道へと拡大し、国内で68万人が「あいサポーター」として実践活動を行っている。障害者差別解消法の求める事業所等における障がい者への「合理的配慮」は、「あいサポート企業」を拡大することで、事業所等に浸透させ得る

 この運動から平成25年に成立した全国初の「鳥取県手話言語条例」へと繋がり、手話条例も約550自治体に広がっている。更に全知事で障がい者の芸術文化活動推進知事連盟を組織し、大阪・関西万博を契機に障がい者芸術を国内外にアピールする活動を進めている。 

 「この子らを世の光にとてささげける いのちのかぎり春をまちつつ」 百年前鳥取市に生を受け障がい福祉の父と慕われる糸賀一雄の歌だ。障がい児に世の光をではなく、「この子らを世の光に」と力強く世に問うた。誰しもが人間として輝きを放つ。 

 今年11月8日。あいサポート運動15周年の記念式典。「ジュピター」等で人気の平原綾香さんが、「あいサポート大使」として自ら作詞・作曲されたあいサポート運動のテーマソング「虹の向こうへ」を高らかに歌い上げた。平原さんは「障がいがありながら頑張っている人がいる中、鳥取から始まるこの運動が全国・世界中に広がるといい」と語った。 

 「あいサポート」を掲げ「障がいを知り、ともに生きる社会」を希求する挑戦は続く。

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